若手監督インタビュー 『イート』横山久美子監督


ごはんを美味しそうに食べる女の子を撮りたい

 

——『イート』は、昨年劇場公開されたトリウッドスタジオプロジェクトの『色あせてカラフル』の後に制作された作品かと思いますが、まずは作品を作るきっかけがあれば教えていただけますか。

 

横山:トリウッドスタジオプロジェクトが終わって、反省が沢山あったんですよ。カット割りなどもカメラマンに任せっぱなしだったなと。作品として形になる過程を、頭の中で組み立てられていなかったので、もっとちゃんとやりたいとは思っていました。次は、次こそは、みたいな。だから、今回は映像から考えたんです。今までは、脚本を書いてこれを映像にするんだったらこういう風に撮ろうっていうやり方だったんですけど。少し前に、女の子がいっぱいご飯を食べるCMがあって、それがすごく印象に残っていたので、今回はごはんを美味しそうに食べる女の子を撮りたいっていうところから脚本を書き始めました。

 

 

——今回の『イート』もそうですが、学校の企画や課題の中で映画制作をすると、スタッフは仕事の関係ではない、同年代同士のコミュニケーションがメインになってくると思います。監督としての立ち振る舞いというか、スタッフとの関係の作り方に関して意識して何かをやっていましたか。

 

横山:意識は絶対していたんですけど、なんていうんだろう……。『イート』の時は、みんなとの関わり方がわからない時期ではあったんですよ。脚本を読んで選んでくれた訳だし、みんなにとっては学生生活最後の作品だから、盛り上げなければっていうのはあって。「この作品で学校生活終わって嫌だったわー」とは思われたくないなと思ってました。だから、みんなと平等によく話すようにはしたかもしれない。キャストのオーディションに関しても、みんなの意見はもらうようにして、制作の子と私だけでは決めないようにしていました。

 

 

——キャストのオーディションの話が出ましたが、今回TV等でも活躍される方をキャスティングされていたと思います。どういった経緯で出演者は決まっていきましたか。

 

横山:今まで映画を作ってきて、キャスティングってすごく大事だなって思ったんですね。ネットの掲示板にオーディションの告知をして、来てもらった人の中から決めるっていう方法でやっていたんですけど、あまり来てくれなかったりとか、思うような人が来てくれなかったりすることもあって。『イート』のどんちゃん(主人公の友人)役はなかなかいい人に出会えなくて、私もあまり思いあたる俳優さんがおらず、どうしようかなって思っている時に、学校の講師の篠原監督が「この人はどうだ?」って芹澤さんを紹介してくれて。他の作品も見ていたし、もしやっていただけるならとってもいいなと思いました。初めてお会いした時はクリスマスシーズンで、喫茶店がめっちゃ埋まっていたんです。公園で寒いですねーって言いながら話しましたね。「やらせてもらえるなら」って芹澤さんに言っていただいて一緒にやることになりました。

あとはみなさんオーディションです。依子さんは、もう宮城さん。来た時にはもう宮城さんがいいと思って。結構そこはトントントンと決まった感じです。

 

 

映画の中で好きなことをやればいい

 

——横山監督は高校を卒業されて、その後すぐ専門学校に入学されたと思いますが、映画監督を志したきっかけはありますか。

 

横山:なんだろう。子供の頃から作るっていうのは好きで、最初は大工さんになりたかったんですよ。その次がデザイナーになりたいとか、家具屋さんになりたいとか、小説家になりたいとか。なりたいものって小さい頃いっぱいあるじゃないですか。高校生の時には、美容室でアルバイトしていたんですけど、いざ進路の話になった時にやりたいことが分散しすぎていて、何が一番やりたいのかわかんないなと思ったんです。別にアルバイトはしているけど、美容師になりたい訳じゃないしと思って。よくわからなくなっていた時に、映画を観に行ったんですね。そこでエンドクレジット見た時に、もう膨大な数の人の名前があって。この中の一人にはなれるんじゃないかみたいな。映画の中で好きなことをやればいいって思ったんですよ。映画だったら文章も書けるし、もし自分が美容師なりたかったら主人公美容師にすればいいし、看板作りたかったら美術部で看板作ればいいし。映画の中でやりたいことが一通り全部できるじゃんって思ったんです。で、どうせなら一番最後に載りたいと思って監督を志しました。その時は監督って好きなことなんでもできると思っていたので……(笑)。

 

 

——実際学校に入って、学生の中で監督っていうポジションをやったり、トリウッドスタジオプロジェクトでも監督をやったりと、やってみるとわかる大変なこともあったとは思うのですが、実際社会に出られて映像業界で働く中で、映画を志した時から変わった部分はありますか。

 

横山: 実際に撮影現場に行ってみて、やはり監督はとても頭が良くないとできないなとは思いました。現場で全部を考えている監督に出会ったんですよ。予算も考えてるし、時間も考えてるし、演出も考えてるし、下調べもするし、カット割りもすごい考えていて。そういう人ばかりではないですが、 やっぱり全部考えないと監督は務まらないんだなって思いましたね。あとその人は一番動く監督だったんです。現場で誰より動く監督。誰よりも早くレールを引こうとするし、すごい俊敏なんですよ、動きが。だから、無闇やたらに学生の時は監督になりたいなと思っていたけれど、こりゃ大変だなって気が付きま した。

 

——そういった監督の姿を見た上で、そういう風に自分もなろうと。

 

横山: んー、そうですね。美打ち(美術打ちあわせ)の時に美術部側から監督にいっぱい突っ込むんですが、「最近の若い監督はこっちが突っ込むと、『じゃあそれでいいです』とかぜんぜん考えてくれてないから、困っちゃうよねー」みたいなぼやきを先輩から聞いて。そうはなってはならんなとか。だからやっぱり監督になりたいっていうのは頭の片隅にはあるんだと思います。そういう風になっちゃいけないと思っている自分がいるので。

 

——映像業界の仕事は忙しいと思うのでなかなか難しいとは思うのですが、これからご自身が監督で作品を撮ることは考えていますか?

 

横山今はそういったこととは離れてしまっているので、あんまり考えられていないな、とは思います。ただ、作品は撮りたい。撮って見せなきゃ始まらないとは思っているので、撮りたいですね。

 

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text:もぎり photo:深田隆之